パフォーマンス評価(用語解説)

ここでは、パフォーマンス評価やカリキュラム設計にかかわる基本的な用語を解説しています。

詳しくは、下記の文献を参照してください。

田中耕治編著 『よくわかる教育評価』 ミネルヴァ書房 (2005年)
西岡加名恵著 『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法』 図書文化 (2003年)

 

「パフォーマンス課題(performance task)」 とは

パフォーマンス課題とは、リアルな文脈の中で、様々な知識やスキルを応用・総合しつつ何らかの実践を行うことを求める課題です。具体的には、レポートや新聞といった完成作品や、プレゼンテーションなどの実技・実演を評価する課題です。

同じようにパフォーマンスを評価する方法でも、たとえばガスバーナーの操作やドリブルといった単純なスキルを単独で評価するものは、パフォーマンス・テスト(実技テスト)と呼ばれます。それに対して、実験を計画・実施し、結果と考察を報告する、バスケットボールの試合をするといった一連の活動を行うことを求めるのが、パフォーマンス課題です。

小学校・理科 「サイエンスショーの様子」
提供:井口桂一先生
小学校・社会 「歴史新聞」
提供:宮本浩子先生

パフォーマンス課題を使うメリットは?

伝統的な筆記テストは幅広い知識を覚えているかを評価するには適しています。しかし、文脈の中で知識やスキルを使いこなす能力を評価しようと思えば、パフォーマンスの評価が必要となります。
たとえば、運転免許を取得する場合は、大きく二種類の試験を突破する必要があります。一つは学科試験であり、これは道路交通法などに関する知識を選択問題によって問うものです。そこでは、個々の知識を再生できるかどうかが評価されています。もう一つは路上検定であり、一定のルートを適切かつ安全に運転しきるというパフォーマンスが求められます。
学科試験だけでも路上検定だけでも、運転手として十分な力を身につけたとはいえないでしょう。同様に、学力を評価する場合にも、筆記テストや実技テストとパフォーマンス課題とを組み合わせて用いることが重要なのです。

 

「本質的な問い」と「永続的理解」とは…

パフォーマンス課題は、「本質的な問い」と「永続的理解」に対応させて作ることが有効だと指摘されています。
 「本質的な問い」とは、カリキュラムや教科の中心にあり、探究を促したり、本質的な内容を看破することを促進したりするような問いです。カリキュラムにおいては、単元を超えて繰り返し問われるような包括的な「本質的な問い」と、単元全体を貫く「本質的な問い」が、入れ子状に存在していると考えられます。
 「永続的理解」とは、数年たって詳細を忘れた後でも身に付けておいてほしいような、重要な理解です。「永続的理解」は、学問の中心にあり、新しい状況に転移可能なものです。また、教室の中だけでなく、生活場面など様々な状況において価値をもつような理解です。

詳しくは、下記の文献を参照してください。

西岡加名恵編著『「逆向き設計」で確かな学力を保障する』明治図書、2008年
西岡加名恵・田中耕治編著『「活用する力」を育てる授業と評価・中学校』学事出版、2009年

 

「ルーブリック(rubric:評価指標)」 とは

ルーブリックとは、成功の度合いを示す数段階程度の尺度と、尺度に示された評点・評語のそれぞれに対応するパフォーマンスの特徴を記した記述語(descriptor)から成る評価基準表です。 (表1参照)
ルーブリックは、自由記述問題やパフォーマンス課題など、○×で 評価できない評価法で採点指針として用いられます。

尺 度 点数で示されることが多いのですが、優・良・可・不可といった標語が用いられることもあります。
記述語 パフォーマンスの質のレベルを規定する基準(criteria)を示すものであり、場合によっては徴候(indicators)を含みます。
徴 候 評価される特定のパフォーマンスに典型的な行動や形跡、基準が満たされた状況を具体的に示す特徴の例です。たとえば、「人を引き付けるような話し方ができる」という基準に対する指標は、「アイ・コンタクトを取る」「快活な声で話す」「聴衆や文脈に合わせて物語やユーモアを用いる」といったものになります。

以下の表は、観点を分けない「全体的なルーブリック」です。ルーブリックには、観点別に評価する「観点別のルーブリック」もあります。

表1 「グループで話し合う力」のルーブリック(小学校6年生)


すばらしい

生き生きと話し合いに参加し、積極的に意見を述べている。互いの意見を関連づけて意見を述べたり、疑問に思ったことを投げ返したりしながら、話し合いを深めようとしている。話し合いのメンバーにも配慮することができ、発言を促したり、声をかけたりするなど、司会者的な役割を果たしている。話し合いの中で自分の考えが深まっていく楽しさを自覚している。


よい

話し合いにおける発言回数が増えてきている。教師が示した見本(「手引き」)の言葉をまねながら、話し合いを整理したり、話題を転じたりするために発言しようとしている。発言の少ない者への言葉がけをしようとしている。


合格

20分程度の話し合いを続け、言うべきときには意見を述べることができる。相手の発言に関心をもって聞き、問うたり感想を述べたりして、相手の発言に関わっている。


あと一歩

単発的に意見を述べることはできるが、なかなか話し合いの中に入っていけない。友だちに促されて意見を述べることもあるが、周囲の友だちや教師の助けが必要である。


努力が必要

話し合いの場に座って友だちの話を聞いているが、友だちの発言に反応したり、自分から発言したりはしていない。


採点対象外

話し合いに参加しなかった。

宮本浩子・世羅博昭・西岡加名恵 著
『総合と教科の確かな学力を育むポートフォリオ評価法・実践編』
(日本標準 2004年) p.123のルーブリックにもとづき作成した。

特定課題のルーブリックをどう作るか?

ルーブリックの作り方には様々ありますが、下記の作り方が一番お勧めです。


課題を実行し、多数の児童・生徒の作品(work)を集める。
20個あれば一応できます(時間が限られている場合は、数個でも考えられます)。


予め、数個の観点を用いて作品を採点することを同意しておく。
独立した観点で評価すべきかどうか考えましょう。迷った場合は、とりあえず「全体的ルーブリック」を作ってみましょう。必要ならあとで観点別に記述語を整理します。


それぞれの観点について、一つの作品を少なくとも3人が読み、1~5点で採点する。
最初はあまり考え込まず、採点しましょう。 ※0点は、採点対象外を意味します。


次の採点者に分からぬよう、採点を作品の裏に付箋で貼り付ける。


全部を検討し終わったあとで、全員が同じ点数をつけた作品を選び出し、それぞれの点数に見られる特徴を記述する。
話し合いの時に出てきたキーワードをメモしましょう。

意見が分かれた作品を見直す。
当初の採点を考え直す必要がある場合も少なくありません。

このようなルーブリック作りをおこなうと、子どもたちのつまずきの実態が明確に捉えられ、次の目標をより的確に設定することができます。また、複数の評価者の間で、評価基準を共通理解するうえでも、このようなルーブリック作りの活動を行うことが有効です。

ルーブリック作りを行ったら、それぞれのレベルのパフォーマンスを改善するために、今後の指導をどのように工夫していくことができるか、考えてみましょう!

出典: 梅澤実・西岡加名恵・喜多雅一・宮本浩子・原田知光 他 『ポートフォリオ評価法を用いたルーブリックの開発(第1号・第2号合冊版)』 鳴門教育大学平成13・14年度「教育研究支援プロジェクト経費」研究報告書,2003年3月)

 

「ポートフォリオ評価法(portfolio assessment)」 とは

ポートフォリオとは、子どもの作品、自己評価の記録、教師の指導と評価の記録などを、系統的に蓄積していくものです。ポートフォリオ評価法とは、ポートフォリオ作りを通して、子どもの学習に対する自己評価を促すとともに、教師も子どもの学習活動と自らの教育活動を評価するアプローチです。

ポートフォリオ評価法のコツ

ポートフォリオ作りを単なるファイル作りに止まらない「評価法」にするためには、次の6つの原則を守る必要があります。

  • 1.ポートフォリオ作りを、子どもと教師の共同作業として行う。
  • 2.子どもの具体的な作品を蓄積する。
    (ここで言う作品には、いわゆる完成品だけでなく、完成品を作る過程で生み出されるメモや下書き、活動の録画・録音、集めた資料、教師による書き取りや聴き取りも含まれる)
  • 3.蓄積された作品を何らかの形で整理する。
    (場合によっては、日常的に資料をためておくワーキング・ポートフォリオから、情報が集約されたパーマネント・ポートフォリオを作り直す)
  • 4.何らかの形で教師と子どもの評価基準を突き合わせるために、ポートフォリオ検討会を行う。
  • 5.ポートフォリオ検討会は、実践の過程を通して定期的に行う。
  • 6.長期にわたって継続する。

これらの6つの原則については、次のような6つの問いに置き換えることもできるでしょう。

  • 1.子どもたちは、自分のポートフォリオに愛着を持っているか?
    →まずは、子どもたちにポートフォリオ作りの目的と意義を説明しましょう。また、折に触れて、ポートフォリオが役立つという実感が持てる機会を作りましょう。
  • 2.ポートフォリオに蓄積された資料から、子どもたちが学習を進めている様子が見えてくるか?
    →どのような作品があれば学習の様子が見えてくるか、またそのような作品をどのようにすれば残せるか、考えてみましょう。
  • 3.子どもたちに、ポートフォリオを編集しなおす機会が与えられているか?
    →指導計画の中で、編集のための時間を確保しておくことが大切です。
  • 4.子どもの自己評価に耳を傾けるとともに、教師の評価基準を伝える工夫を凝らしたような、ポートフォリオ検討会を行っているか?
    →「自分がしたことの中で、一番いいなと思うところはどこ?」、「比べてみると、どんな違いに気付くかな?」といった問いかけをしましょう。その上で、キーワードや論点を板書で整理したり、一番大切なポイントに絞って助言したりしましょう。
  • 5.単元の指導計画を立てる際、いつ、どのような形でポートフォリオ検討会をするかを明らかにしているか?
    →グループ別で活動している時間などに、ローテーションを組みましょう。一斉授業も、うまく計画すれば良いポートフォリオ検討会になります
  • 6.少なくとも一つの単元を通して、ポートフォリオを用いているか?
    →どれぐらいの期間でポートフォリオを作るか、最初に目途を立ててから始めましょう。
 

「検討会(conference)」 とは

検討会とは、子どもと教師がともにそれまでの学習を振り返って到達点を確認するとともに、その後の目標を設定する場です。  検討会では、具体的な学習の姿について子どもと教師が話し合い、お互いの評価のすりあわせを行います。子どもたちのパフォーマンスを伸ばすためには、成果と課題を的確に把握する自己評価力を身につけさせる指導が必要です。検討会での対話を通して、子どもたちの自己評価力を育てるのです。

問いかけによって、子どもの自己評価を引き出す。
「この作品のいいところはどこかな?」「今、困っていることは何?」といった問いかけをしましょう。

子どもの言葉に耳を傾ける。
この際、教師には、「待つ」力が求められます。

達成点を確認し、いいところを褒める。
無自覚のうちに優れた力を発揮しているところは、しっかり褒めて、強化しましょう。

具体例の比較を通して、目標=評価基準を直観的につかませる。
乗り越えさせるべき課題については、言葉で説明するよりも、具体例で示した方がわかりやすいものです。モデルとなるような作品を見せ、比較させましょう。

次の目標について、合意する。
具体例の比較を通して直観的につかんだ目標=評価基準を言語化します。また、見通しが立つ範囲の目標に絞り込んで、教師と子どもの間で「次は、ここを頑張る」という合意をします。

確認された達成点と課題、目標についてメモを残す。
検討会での話し合いを通して明らかになった要点を記録します。この記録は、次の学習について教師と子どもとの間に交わされる、いわば“契約書”です。次の検討会では、この記録を見ながら、学習の進み具合を確認していくことになります。

検討会の様々な進め方

必ずしも、教師と子どもが一対一で対話する形で検討会をする必要はありません。 紙面上でコメントする形も考えられます。クラス全体で作品の批評会をすると、とても良い検討会になります。子どもたちの自己評価力が育ってくれば、ポイントを整理して示した上で、子ども同士で相互評価する形で行ってもいいでしょう。